「砂が降ってきますから」
調布に住んだ文豪ということで、安部公房の生誕100年祭が開催されたそうです。映画「箱男」も上映されているようだし、見に行ってみようと思っていますが、まずはその前に予習ということで勅使河原宏監督の『砂の女』(1964)を鑑賞しました。
白黒のざらっとした質感と、接写による人の湿りを感じさせる生々しい描写、乾いた空気、息苦しさ、心理描写なども含めて、生について深く考えさせられる映画でした。
建築設計者としては建物に目がいってしまうのですが、気密性なんかは全くなく、砂が天井から降ってくる、ましてや砂のベッドルームのような部屋があるのはなかなか新鮮で見入ってしまいました。
この家は、人が環境に順応するしか術がないという状況に置かれており、非常に過酷で、人の生きる力を最大限に発揮しなければ、生きることすらままならないという家です。通常の住宅は、人が自然をコントロールすることで快適さを獲得しますが、全く逆の状況に置かれた人を描写しています。配給による飲食のみで食べ物の自由もなく、休む場所を守るためには砂かきをし続ければならない。人によって管理され、環境によってコントロールされて生きる。自我を半分奪われた状態とでも言えるでしょうか。でも、その状況に慣れてしまえば、なぜか不思議とそんな過酷な状況でも平気でいられる、という人間の適応力の高さの一方で、慣れというものの、思考停止的な怖さを感じました。
想像の物語ですが、この状況を想像した安部公房とは一体どんな人物だったのだろうかと、興味が湧いてきます。神奈川近代文学館で安部公房展(2024年10月12日(土)〜)が開催されるようだし、行ってみようか。
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